恐怖のはま寿司

春休みもいよいよ終わり。ここ数日は雨続きで、家での遊びにも飽きてきた頃だが、昨夜子供達は22時までせっせと働いていた。何かと言えば、お菓子のお寿司屋さんのカウンターを段ボールで制作していたのだ。翌朝9時半の開店目指して、2人で心をときめかせながら一生懸命に作るカウンター。私も一番目を予約して楽しみにしていた。ちなみに店長は娘、息子は店員さんだそうだ。娘は予めこんなことを教えてくれた。「明日は私は起きるのが遅いので、店員さんが先にお店にいます」と。店員よりも遅く出社する店長、大丈夫だろうか?
さて、朝日が昇り、子供たちが待ちに待った今日が来た。子供たちが早々に一階に下り開店の準備に取り掛かる頃、私はまだ睡眠5時間目に入る頃だった。寝室にスマホを持ち込まない生活が板についてきた矢先のこと、邪魔者が現れた。先日ネトフリで見事なカムバックを見せてくれたBTSのみなさんである。数年前までどハマりしていたのに兵役と共に私の熱は冷めていった。それがカムバックと共に再燃したとなれば、熱心に応援し続けてきた友達の反感を買うかもしれない。でも、あの新曲MVを観てしまっては、再燃せずにはいられない。目が釘付けになり、何度も何度も観てしまった。
気づけば3時になろうかというところ。やめとけ、やめとけ!明日はお寿司だぞ!心の声に従って、後ろ髪引かれる思いでスマホをリビングに置き、泣く泣く寝室へと向かった。まだ瞼の裏に焼きついているMVの余韻に浸りながら目を閉じた。そして、あっという間にお寿司屋さんに起こされた。朝ごはんを食べたら、さぁ「はま寿司の森」開店だ!
内心めんどくさかった。でも、子供が楽しみにしていることだ。私が楽しまなくてどうする!意を決して、「はま寿司の森」のカウンターに座る。かわいい「いらっしゃいませ」の声と共に、運ばれてきたシャリ半分、ネタ半分のマグロのにぎりは見事にマグロのにぎりだった。本物のような色合いに驚いた。「お醤油かけますね」店長の言葉にドキッとする。ドバドバとかけられる醤油。
待て待て!これはグミだ!グミにかけられるこの液体はなんだ!脳がバグる。でも悔しいことに、醤油をかけると更に本物のお寿司に近づいたではないか!これは何なんだ?!私はお寿司を見ているのにこれがお菓子なんて。怖い!怖すぎる!私は今何を食べようとしているのだ!この恐怖心は経験したことがない。42歳の初体験である。
割り箸を割って、いざ実食!
ん、美味しい。もちろんお寿司のおいしさではないけれど、お菓子としてちゃんと美味しい。味わっていると前方(カウンター内)で「のり!のり持ってきて!」と店員さんが何やら店長に指示している。やっぱり。このお店では店長とは名ばかりで、実権を握るのも寿司を握るのも店員さんなのだ。そうなると、彼が社員なのかアルバイトなのかが気になるところ。そんなことを気にしているところにやってきた次なるにぎりは「たまご」。「たまごにお醤油かけますか?」店長からの質問に迷っている間に、またドバドバとかけられた。それが醤油じゃないとわかっていながらも、つい癖で塩分を気にしてしまう自分がいや。またしても見た目はお寿司。一度目よりは慣れた。パクっ。うん、美味しい。脳が一生懸命に状況を理解しよとしている。まるでう◯こ味のカレーなのか、カレー味のう◯こを食べようとしているのかわからないような、そんな感覚である(もちろんどっちも未経験)。
最後の締めは「いくらの軍艦(海苔無し)」。いくらは5粒ほどで、どう見たって詐欺である。おまけに海苔もなく、完全なる「いくらが米に付きました」状態である。どうやらいくらと海苔は、美味しくて店長が食べてしまったようだ。あぁ、愛おしい店長。「いくらが米に付きました」を食べてまたもびっくり。いくらがプチプチしているではないか。これまでとは違う食感に感激ものだ。
食べ終えたところで「お支払いします」と声をかけると「お金はいりません。お客さんのいい顔を見たいだけですから」と言いながらトイレに向かった店員さん。やっぱりあの人は事実上の店長、いや社長なんだ。トイレから戻った店員さんは「でもその代わり、また来てくださいね」と言って送り出してくれた。必ずやまた来ます。でも今日は私が唯一の客だそうだ。ただ一人の客からお金を取らないで、ちゃんと次はあるんですか…。
「はま寿司の森」の評価は★★☆。シャリが柔らかすぎること、軍艦にのりがないことがマイナスとなったが、心のこもった接客にはとても満足した。そんな素晴らしいお店だからつい夫にも勧めたくなった。「この恐怖心一回味わってみて」と。すると夫はこう答えた。「俺が体調崩したら、みんな生きていけないよ!」と。夫はいくらアレルギー。でもあなたが食べようとしてるのはお菓子なんだってば。夫の脳もまたバグっている。

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\ 私が書いています /

神奈川県出身。
夫と2人の子供と4人暮らし。
20代の頃スペインに約1年間滞在した経験があり、ピソでの各国からの友人たちとの生活は、今思えばまるで映画の中のような世界でかけがえのない時間となった。しかしあの時必死で身につけたスペイン語はいつの間にか風に吹かれて消えていった。今となってはあの1年が壮大な妄想だったのではないかと思い始めている。信頼と語学力は努力を怠れば一瞬で消え行くのである。
心に残る本は『Jimmy』。もしも人生を悲観する日が来たら再び手に取ろうと決めている。

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